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2023/06/21

長野県の農業と防災を考える ~気候変動適応先進自治体の取り組み~

皆様、こんにちは!
ノウキナビ事業部の”オオキ”です。

前回のブログでは、日本の農業を世界に広めるための具体的な進め方について、
お伝え致しました。

さて、今回は長野県内の生産者の方々にフォーカスし、「農業」と「防災」に
関して、お伝えしていきたいと思います。

台風シーズンが到来するこの時季。 大雨や土砂崩れ、洪水…
気象に端を発するこのような風水害に対し、我々農業従事者、特に農家の皆様が
できる対策とは
どのようなものか?

防災の世界的潮流から、日本の災害対策、そして長野県が取り組む各種防災対策
など
気候変動対策と絡めてお伝えします!

気候変動(適応)に関する過去の詳細ブログはこちら

 

世界の災害実態

そもそも長野県の防災を考えていく際に、現在の防災の世界的潮流を
知っておく必要があります。(世界では”BOSAI”という言葉で通じます!)
いま、防災分野では何が課題となっているのか?ざっとですが、ご説明します。

少し前の報告数字(1970~2008年の平均値)にはなりますが、
世界では日本の人口を遥かに超える約1億6千万が毎年被災しており
自然災害(natural hazards)による死者数は
年十万人に及びます。

とりわけ人口そのものが多く、大都市圏など過密状態となっている地域が
無数にあるアジアの被害は甚大で
す。
(当然のことながら、そもそも人がいなければ”災害”にはなり得ません。)

災害の発生件数は世界の4割、死者数の6割、被災者数の9割、被害額の実に
5割がアジアに集中しています。

留意しなければならないのは、犠牲者の大半が低所得国の、しかも末端にいる
貧困層の人々です。

貧困の連鎖は、紛争や内戦など人為的な災害によるものだけでなく、
毎年発生する自然災害に対する
予防的措置を持たない・持てないことが、
原因であり、
これが再び脆弱国家へと変貌させ、更なる格差や絶望的な貧困を
生む遠因となっていることを忘れては
なりません。

 

国際的な防災潮流

2015年3月以降、世界の”BOSAI”は大きな潮目を迎えます。
宮城県仙台市で開催された「第3回国連防災世界会議(WCDRR) 」で採択された
”仙台
防災枠組(SFDRR)”は、歴史的に見ても長い災害史を有する日本側の
強い想いが反映された画期的
な国際的フレームワークです。

それまでの国際的防災指針では災害復旧支援のための緊急援助や早期警戒などに
フォーカス
されたものでした。つまり、人道イシューに比重が置かれた内容
だったわけです。

一方で、SFDRRでは災害に対する強靭な社会の構築に向け、「事前の防災投資」
「より良い復興(BBB : Build Back Better)」という持続可能性に力点を
置いた内容にパラダイムシフトしている点が大きな特徴です。

つまり、不幸にも万が一災害が発生し、罹災する結果となってしまった場合で
あっても、
それを奇貨として、発災前の状態よりも更にレジリエンスの高い
社会に再構築して
いくという概念が世界的に採り入れられたということを
意味しています。

多くの日本人にとっては、このような傾向に関して特に不思議と感じること
ではないかもしれませんが、
世界の防災関係者にとっては極めて画期的な
出来事でした。
地象・気象災害により、長きに渡る被災経験を通し学び得た日本の知見を
世界に活かすべく、
WCDRRの議場で最後の最後まで日本側が粘り強く主張、
世界中の参加国を説得し、土壇場で
採択へと繋げた日本が誇るべき
グローバル
スタンダードといっても過言ではありません。

災害というものは、人々が血と汗で積み上げてきたそれまでの開発行為を
一瞬で水泡に帰す危険性を多分に孕んでいます。
これらの被害をもたらす自然現象そのものを人間の力で防ぐことはできませんが
被害規模をより
少なくさせていくことは可能です。

その意味で、”防災”を”disaster prevention”という英訳で表すことは不適当です。
現在では”disaster risk reduction
(≒減災)”という表現が世界的な一般的呼称と
なっています。 

また、SFDRRのもう一つ画期的な点というのは、国家レベルだけでなく、
地方にもきちんと焦点が当てら
れている点でした。
現在、国単位では防災に関する法令や国家防災計画などが多くの国で整備され
つつある状況であるものの
、とりわけ開発途上国の地方エリアなどでは
未だに
計画立案段階にすら至っていない状況が散見されています。
(この点は、
以前のブログで、ご紹介した気候変動適応分野における諸課題と
同じ様相です。)


計画そのものがなければ、財源の根拠にも成り得ず、河川改修や沿岸防災工事
など人々の命に
直接的に係る事業を行政が実施していくことは当然できません。

また、中央政府がどれだけ立派な計画を策定しても、地方政府がそれに伴う
行動をして
いなければ国家として有効な成果に結びつけることは困難です。
なぜなら、気候変動の影響
により年々その被害エリアは広域化しているからです。

災害は人間が決めた境界線を考慮してくれるわけではないため、高い被災リスク
が予測されて
いる地域を中心に、その周辺の区域を主管する行政組織と一体と
なった防災の取り組みを展開
する必要があるわけです。

そのため、SFDRRでは上記の優先行動とは別に、7つの具体的目標である
グローバルターゲットが
定められましたが、その第一には「地方の防災戦略
(Global Target E)」を世界中で増加させる
点を明文化しています。

その達成に向け、国連防災機関(UNDRR)は「Making Cities Resilient 2030
という世界的なキャンペーンを現在も展開しており、2023年6月現在では
およそ1,500以上の都市が加盟しています。また、そこに住む人々の数は
約5億人に達します。しかし、世界の総人口は既に昨年の11月時点で80億人
に達しているので、地球規模での取り組みとしては未だ1割にも満たない
状況です。我々市民が、一人一人の行動変容に結びつく活動を地道に続け、
地域を、そして行政を動かし、防災力の向上を全世界的に進めていくことが
大切です。

 

日本の災害対策

日本は、SFDRRをはじめ、パリ協定やSDGsなどの国際枠組が策定される遥か
以前より、既に地方レベルでも防災計画などがきちんとマスタープランの中で
位置づけられ、それを
法的根拠として財源の確保、施策の実施へと繋げること
ができている数少ない国の一つで
す。(日本にいると、この重要性になかなか
気付きませんよね!)

しかしながら、ここ日本でも1950年代までは伊勢湾台風など、大型の台風を
はじめとする
各種気象災害や、関東大震災などの都市直下地震により、
数万人単位での死者数を出す
破壊的な災害が多発していました。

その後、1995年の阪神淡路大震災までの30余年は、奇跡的に日本国内では
大規模な災害が幸い
発生しませんでした。
高度経済成長時代を迎える中で、国土保全の進展や予警報能力の向上、
災害情報伝達手段の拡充
に加え、防災体制の整備が進んできたという点
この理由として挙げることができると分析
する学者もいます。

また、日本は今から1300年以上前に起こった大地震(白鳳南海地震)の記録が
未だに残って
いるなど、災害の記憶や伝承を長い年月に渡り次世代に残すこと
ができた世界的にも珍しい国の一つ
でもあります。
データとして、このようなエビデンスを積み重ねることができればできるほど
その国の
災害対策能力は、概して著しく向上していきます。

1880年代には地震学会が発足すると共に、天気予報の開始もされるなど、
近代に入ってからは
特に科学的なデータを基にした災害対策が次々
実現されていきました。

インフラ対策などをはじめ、先見性に富む国家的公共事業が全国・全分野で
進んだことが、
現在の日本を支える盤石な防災基盤の構築へと結びついた
ということに異論を唱える人は
恐らく少ないでしょう。

こうして、1961年には国としての基本的な災害対策を盛り込んだ
「災害対策基本法」が
制定され、あらゆる災害種に対する法律が
以後整備されてきました。

 

長野県の動き

長野県は、ゆたかな社会の実現のために ”大変革への挑戦” と題し、
県の5か年計画
であるマスタープラン「しあわせ信州創造プラン3.0」を
今年3月に発表しています。


この総合計画における主な政策の柱の第一には気候変動対策を掲げ、
続いて防災対策を盛り込んでいる点が本計画の特徴です。
以前のブログでお伝えしましたが、大別して気候変動対策には2つの
アプローチ(緩和策
・適応策)があり、そのどちらを欠いても
気候変動という地球規模課題の解決へと至ることはできません。

県は、そのことの重要性と今後気候リスクが県民に与えるネガティブ・
インパクトへの
対策を最優先事項とし、緩和と適応の両輪から得る
コ・ベネフィットを、県民生活の向上
に最大限活かしていくための
ロードマップを
策定したということになるわけです。

長野県は、都道府県としては初となる「気候非常事態宣言」を全国に
先駆けて発出し、77
の基礎自治体全てがこれに賛同しています。
また、古くから県の施策づくりの中に住民を巻き込んだ議論や意見交換を
重ね、施策立案
時には地域を一番よく知る地元の方々の意向をきちんと
採り入れた県政を進めてきた
極めて民主的・先進的な地方公共団体の一つ
です。(長野県民の我々は、ここを誇るべきかもしれません!)

適応は、極めて地域固有の性質(site specific/context sensitive)を帯び、
長野県内のどこの
市町村・どこの地域でも通用する有効な手段は決して
一つとして存在しないという極めて複雑な課題で
す。
重複しますが、そのため、町会や自治会・地域のリーダーなど、真に
地域特性を熟知した
方の協力がなければ、カタチばかりの適応策
終始することとなり、
絵に描いた餅となってしまいます。

上述の県の総合計画の中では、温暖化に対応した高温耐性品種の開発や
新しい農業技術
・農業手法に取り組むこととしており、個人の農家が
直接やり取りを行うことが困難な
研究機関や、学術機関との連携は、
行政側が
中心となり、対策を進めています。

2019年に気候変動適応に関する国際標準規格(ISO14090)が世界で初めて
発行されましたが、
この規格はアンブレラ規格となっており、
以降14091では影響評価や将来予測に関すること、14092では地方や
地域コミュニ
ティなどをターゲットとした適応の在り方について言及
しています。

とりわけ、14092の中で謳われていることとして「適応のチャンピオン」
と呼ばれる
立場にある自治体の長や、気候変動や環境等所管部署の
政策決定権者が中心となり、地域
や周辺自治体・研究機関等を上手に
巻き込み
ながら、各々の立場で適応に関する具体的な取り組みを実践
していく必要性を解説しています。

日本は、世界で初めて気候変動適応に関する法律(気候変動適応法)を
2018年に施行
しました。それに基づき、長野県では気候変動の影響評価
と将来予測を行う研究機関(信州
気候変動適応センター)を設置し、
科学的
な論拠から導き出された適応策の創出を支援しています。

特に農業分野では今後数十年間で激甚化する気象災害や環境の劇的な
変化に対して
我々農業関係者は個人も企業も、そして地域も
一体となった適応策を本気で進めていく必要があります。

少なくとも、生産者など個人の方々が今後取り得る手段の一つとして
気象衛星を
農業分野に活用したリモートセンシング技術など、
適切なタイミングで田植えや収穫時期を決定し、生産効率を最大限に
高めつつ、
風水害のリスクを可能な限り回避した行動を取っていく
ことが
極めて重要です。
また、未曽有の災害が発生する事態に備え、天候インデックス保険など
農業デリバティブ
を活用していくなど、安定的な所得を自らで確保する
手段を講じていくことも、
併せて検討していく必要があります。

 

まとめ

日本は、近年まで防災先進国といわれてきました。
実際にそうだと思います。製造業をはじめ、
様々な業界が衰退するこの国
において、世界に
向かって真に日本のプレゼンスを示すことのできる分野
は”防災”を除いて他にないと言わざるを得ない状況が続いています。
だからこそ、”BOSAI”
という言葉が世界的なワードになったわけです。

しかし、日本が誇ってきたその強みも、今や風前の灯となっていることを
我々日本人は
強く心に留めておかなければなりません。

2019年に発生した台風は、長野県内各地で大きな脅威をもたらしました。
沿岸部から最も遠く離れた内陸で、これほどまでに大規模な損失を出した
超大型の熱帯低気圧の頻度・強度は今後30年間で爆発的に増加していきます。
途上国の被災地域で目の当たりにする光景が、日本国内のそこかしこで
起きています。

その意味で、先の台風19号は入口に過ぎません。
気候変動の影響により、従来の防災対策では、もはや太刀打ちすることが
現実的に不可能となってきました。


防災は、防災という単独の分野で解決できる課題ではありません。
官民産学のあらゆる
人々が様々なセクターと協力し、取り組んでいかなければ
決してクリアできない問題です。

同様に、全球規模でつながっている気候変動への対応策も一つの地域・国だけ
で完結する
わけではありません。こうした複雑な要因が相互に絡み合っている
ため、気候変動や防災は分野横断的地球規模課題などと呼ばれています。

防災関係者には周知の事実ですが、
『災害が発生する前の1ドルは、発災後に生じる7ドル分の経済損失に相当する』
と言われています。

つまり、いかなる国や地域、企業にとっても事前の防災投資は、結果的に生じる
ロスを最も
安価に抑えることができるということと同義です。
防災は、決してコストなどではなく、将来被る
可能性の高いリスクを軽減する
ための
投資であるという点を我々は強く認識しておかなければなりません。

少なくとも、今後数十年間は災害の頻度・強度は共に増加し、更に激甚化して
いくことは疑う
余地がありません。
これだけのエビデンスが揃っているにも関わらず、具体的な策を講ずること
を怠り、目先の
利益に固執するリーダーと、その集団は今後高い代償を
払わなければならないということ
は火を見るよりも明らかです。

これは国だけでなく、地域コミュニティや、企業とて同様です。
こうした世界的な警鐘や動向に関心の低い集団に未来は訪れないでしょう。

我々一人一人が農業や防災、そしてそれらを包含する気候変動適応について
真剣に考え
行動していくことこそが、自滅の道を回避する唯一の方法論です。

 

とまぁ、毎回毎回ブログの最後はカタい話になってしまい、
たびたび恐縮ですが今回のブログは以上です!
長文・駄文失礼致しました~<m(__)m>

我々の未来が明るいものとなりますよう本気で取り組んでいきましょう!

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