1業務分掌の意義
会社の経営は、成長に伴い経営者による属人的な経営から組織的な経営に移行していく必要があります。
経営者が単独で経営判断を行っている属人的な経営のままでは、経営者による不適切な判断があった場合に変更・撤退することが遅れるなど会社に多大な損失を及ぼすおそれが高いことや、経営者の判断が短期的となりやすいなどの事情から、多くの投資家に信用されることはありません。
投資家から信用される会社とは、経営者が大きく関与しなくても利益が出せる仕組みができている会社です。すなわち、事業活動上において様々な事象が発生した場合であっても、誰が、どのような判断を行うかが予め決められており、このルールに従って経営されている会社です。
このような仕組みを作るためには、誰がどのような権限を有しているかが明確になっていなければなりません。業務分掌に関する規程やルールは、組織的な経営のためには、必要不可欠の制度といえます。
2 具体的な方法
成長中の企業にとっては、常に人材不足の課題を抱えているため、職務の兼任が多く、職務のけん制、監視・監督が不充分なことが多くあります。
そこで、まずは以下のようなポイントに絞って業務分掌に対処していくことが考えられます。
①営業部と管理部の監督業務の兼任禁止
営業部は、売上をあげることを命題としています。そこで、多少の売掛金未回収リスク等があってもリスクを引き受けてでも売上をあげる動機があります。
しかし会社全体としてみれば、売上があげられていても回収できなければ会社に利益は残りません。そのため、未回収リスクが一定以上ある場合には、取引を放棄するという選択がとられるのが合理的です。
また、未回収リスクがどの程度あるかどうかは、売上をあげるという動機をもたない管理部の職域とすべきです。営業部が算定することもありますが、最終的な判断は管理部で行うべきでしょう。
こうすることで、客観的な回収リスクを算定することができ、過度なリスクをとることも失くすことができます。
②経理と財務の分離
経理とは、企業活動で生じた収入・支出を正しく記録することを目的とする業務です。
他方で、財務とは、今後事業に必要な資金を見込み、資金の割り振りや資金調達を行うことを目的とする業務です。
両業務が一人の社員により兼任されていると、横領などの不正を容易に行うことができてしまいます。また、横領ではなくとも、不正・不適切な会計処理等が行われる危険も高くなるため、投資家からの信頼を得ることはできません。
以上の2点をまずは意識して業務規程等が定められていると最低限の業務分掌はできていると考えられます。
3まとめ
適切に業務分掌を行うことで、経営者や部門責任者の検討事項や判断事項を削減することができます。これにより、経営陣は、経営戦略や新サービスについてリソースをつくることができ、効率的な事業活動をおこなうことも可能となります。また、業務分掌に関しては、業務活動に直接影響を及ぼすことから、不都合があれば適宜改善を行う必要があり、モニタリングも継続していく必要があります。
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